Vol3.内装・建築について

内装・建築

ユヤマは先生方が開業物件候補を決定しその物件に対して事業検証を行う段階から、信頼できる経験実績豊富な内装工事会社さまとともに、開業物件の内装レイアウト検証を支援しております。
先生方が望む形で診療できる物件なのか、内装工事費用がどのくらいかかる物件なのかを確認することは、事業計画を作成する上でとても大切なことです。
連携させていただいている内装工事会社様は複数社ございますが、今回は、東京・大阪で豊富な実績と専門知識を基盤として経営なされている「株式会社コンパス」専務取締役 長渡様に、クリニックの「内装・建築について」、気を付けるポイントについてお伺いしました。

【対談者ご紹介】
株式会社コンパス
専務取締役 長渡 武史 
https://www.compass-co.com

5.開業前 準備期:

診療所の開設届を出され、保険診療の認可が下りるのを待ちながら、研修や準備にかかる期間。この期間はほぼ1ヵ月内で固定されていることが一般的です。

4.内装工事期:

80坪ぐらいまでのクリニックであれば、特殊な診療科目(MRI、透析設備があるクリニック等)ではない限り、その工事期間は約2ヵ月間で固定することができます。ここからの3ヵ月(4と5)は期間的にほぼ固定されるため、何らかの努力によって短縮することや省略することはできない期間と捉えてください。

3.実施設計期:

さまざまな内装会社があり、それぞれのスケジュール感があると思いますが、私は2週間に一度のペースでお打ち合わせを行うとして最低3ヵ月(6回程度)の細かい設計打ち合わせが必要と思います。1~2回目は、照明や便器、空調、換気などの設備的な打ち合わせや扉や家具の基本構造に関すること。3~4回目は、家具図、コンセントやLANなどの配置図(医療機器とも整合が必要)、展開図などの立体的、実用的な空間理解のための打ち合わせ。5~6回目は、デザインや内装材に関する打ち合わせ。その他にも最終的な契約費用に関するお話や什器備品(待合いソファやデスク、事務収納など)に関する打ち合わせなども付随してくることが多いので、3ヶ月というのは「最低ライン」で考えていただくほうがご開業される先生方にはメリットが高く、「実際の使い勝手や使い心地を考える期間がある」ことになります。

2.内装業者選定期:

ここがドクター、開業支援者、内装会社各々の一般的な理解、解釈に違いがありとても難しい期間になります。私が過去に読んだことのある開業コンサルタントの本には、「開業6ヵ月前で内装の打ち合わせは間に合う。」と記載されていました。(表1)でみるとすでに3~5の期間で6ヵ月あります。ひょっとすると、「開業の6ヵ月前までには内装会社を決定していれば間に合う。」という意味合いなのかもしれません…。内装設計会社を選定するにあたっては、まず確実な現場情報が得られていること(現場調査または関係図面、工事区分、工事条件)を前提に、

平面提案図(実用的にやりたいことができると判断できる材料)
イメージパース(視覚的に出来上がるクリニックがイメージできる材料)
概算見積書(現場の限定条件を踏まえ平面提案図とイメージパースをまとめていくらかかるのかを確認できる材料)

を揃えて初めて内装会社を採択できる条件が整います。

比較検討される会社との打ち合わせは多過ぎても生産性は低くなりますが、最低限3回程度は会って意見交換を行い、それぞれの会社が持つ特性や考え方を理解することで、最終的に意思決定を行う先生がより採択しやすくなると思います。弊社ではこの期間を3ヵ月は確保したほうが良いと考えています。

「内装会社に相談をする時期」は上記の通りで行くと、ご開業の9~11ヵ月前が望ましいと考えますが、冒頭に記載した不動産の入居条件等を踏まえ、この期間を短縮せざるを得ない時があります。

その場合は、原則2と3の期間(品質を考慮すると、できれば2の期間)で短縮や省略を考えていくことが望ましいと思います。

1.立地検討期

相談し始めのタイミングとして更に望ましい時期です。診療圏、賃料等の条件面、広さは問題ないけれども、そもそもクリニックにできないなどの不安材料があり、場所変更せざるを得ないケースをよく聞きます。電気容量が足りていない、排水にあたっての傾斜角度(排水勾配)が確保できない、消防法や建築基準法に適合していない建物もあり、クリニックとしては使えない物件、使いにくい物件もあります。

不動産屋さんは不動産のプロであって、建築のプロではありません。候補となる物件を見つけられたら、せめて「ここはクリニックにすることはできるのか」という最低限の条件クリアを図るため、内装会社と一緒に現地見学、現地調査を相談してもらえればと思います。弊社もそうですが、内装会社は営業活動の一環として、調査を無償でされているところが多いと思います。

A.
保険診療のクリニックをつくるにあたっては、原則、以下の3点を踏まえるほうが良いと思っています(踏まえたうえで、敢えて外すことは問題ないと思いますし、自費診療メインの場合は考え方も異なります)。

2-1 クリニック設計の基本

オモテ“と”ウラ”

患者さまも職員も入るオモテ。職員しか入らないウラ。
オモテの室群の中にウラの室が混ざると使いにくくなります。

“テマエ”と”オク”

一般的には各室に患者さまが入る順番はほぼ決まっています。
各室は患者さまが進む順にテマエからオクへ配置します。

診察室は中央に!

ドクターの居場所である診察室はクリニックの中心に。
全体を把握できやすく、業務の効率化にもつながります。

「当たり前なのでは?」と思いそうですが、なんだか使いにくそうだな?と感じる図面は、このいずれかを踏まえられていないことが多くあります。踏まえられた上で敢えて外している場合は、その代替策が取られているのでご安心いただいてよいと思います。

2-2 図面の中を歩いてみる

“人の動線” “隠れた動線”

クリニックは住宅とは異なり、ドクター、スタッフ、患者さま、患者さまのご家族という、役割も目的(やる事)も異なる人たちが動く場所です。
それぞれの立場で図面の中を歩いてみる。ということは図面を「観る」上でとても大切なことです。

2-3 図面はきれいに見えるが、実際に動いて問題は無いか

前述のとおり、クリニックは様々な人が動き、時に錯綜します。
人間の身体には標準的な寸法があり、またその動きには人間工学的な寸法があります。以下はその一例です。

通路の幅
動線を挟む家具間の距離
イスの動作距離
収納家具(開戸・引戸)の動作距離

図面を見て、ゾーニング(各部屋の配置)を確認しても見えてきづらいこれらの寸法。
計画をするにあたって「少々無理やり詰め込んだのかな…」と感じるクリニックもたまに見かけます。図面の中に人のサイズで人をプロットしてある図面、デスク、待合いソファがプロットされているか否かで、イメージのしやすさが違ってきます。診察室内でも、診察デスクと診察ベッドの間の距離も先生方によっては、使いやすさに好みの差があります。内装会社さんと打ち合わせが始まるときには、これらの検証をするためにも、メジャースケールと三角スケールを用意いただき、自身で「先生、スタッフ、患者さまそれぞれの目線で」図面を観てください。

三角スケール
(図面上の寸法を測る道具)
メジャースケール
(できれば3m以上)

普段の診療でそれぞれの方が動いている場所に自身も立ってみる。という見え方の違いを体験する事も良い気付きになると思います。勤務先で診察室の広さはどのくらいだろうかと興味を持って観ていくと具体的にイメージできます。
そうすれば上記の検証もできますし、図面理解も進み、より納得のいく完成度の高い図面をもとにしたクリニックが完成することになります。

A.
診療科目ごとの特性についてですが、プライバシーを配慮すべき診療科として、泌尿器科、婦人科、乳腺外科などが挙げられ、これらの科では男女両方が来院しやすい環境づくりが重要です。近年、奥様の付き添いで旦那様が同伴されるケースも増えてきているからです。高齢者が多いクリニックでは、待ち合いソファの座面の高さ(立ち上がりやすい高さ)、手押し車のスペース確保、滑りにくい床材の選定などに注意が必要です。小児科は特殊で、患者本人ではなく、親がクリニック来院の選択権を持つため、子供好みの内装か親向けの内装に寄せるかの選択が必要です。同伴者含めて来院人数が増えますので、スペース的にゆとりも必要になります。皮膚科では保険診療と自費診療で患者さま動線を分けるという考慮点もあります。

それぞれの診療科目別には大前提となる特性があり、それは先生方もご存じだと思うので、詳細説明は上記内容に留めさせていただきます。国内のクリニックは専門医制度を活かした開業形態の増加や、自費診療分野の広がりもあり、たとえ同じ診療科目であっても基本的なつくり方がそれぞれ異なるケースが多く見られるようになってきました。

その中で「正しいもの」は一つではありません。下図を参考に自身のつくりたいクリニックをイメージしていただけるのではないかと思います。

平面プランの考え方

これは弊社がクリニック設計に係る基本概念にしている図です。
線型レイアウトはどちらかというと病院設計の概念に近く、面積が限られるクリニック設計では面型レイアウトが望ましいのではないか、それが10年ほど前までの概念でした。前述の専門医を活かした診療、自費を踏まえた診療も増えてきている昨今、「線型には線型の良さがある」ということも考え、双方の折衷プランなども多く見られるようになってきました。
大まかな診療の流れのイメージと共に、先生ご自身が「どのような診療方針でどのようなクリニックを目指しているのか」ということを少しでも明確化して内装設計会社に伝えることが重要なポイントになってきていると感じます。

A.
「理解し納得した材料を採用し、いらないものはいらないと採択できること」が内装費を抑えるための工夫の一つかと思います。

ご質問いただいた通り、資材も高騰し、また輸送費や人件費も高騰しています。
私自身は「安い材料を使う」とやはりそれは壊れやすく、傷みやすいものも多いと思います。
例えば一日に50人の患者さまが出入りする診察室の扉は、1日に100回開閉します。
100回/日x20日(平均月開院日数)x12ヵ月x20年(ご開業される先生が続けたいと思う年数)はその期間にその扉は、48万回開閉することになります。住宅の扉は一日に何回開閉するでしょうか?その差異を考えると、同じ扉であってもクリニックと住宅で求められる仕様は異なるべきだと思います。

また医療では診療報酬制度のようにキャリアに関わらない一定の報酬制度がありますが、建築職人の場合、人件費(報酬)はそれと異なります。例えば壁紙を貼る職人でもその練度で施工単価が違うように、キャリアや実績のある職人は報酬が高く、キャリアのない人間は安い。という実態もあります。

「安い」ということにそもそも物差しがなく難しい話なのですが、敢えて言うのであれば、概算段階からできるだけ詳細な見積もりを取るようにして、使用する材料の取捨選択ができるようにしておくことが重要だと思います。

弊社も競合することがありますが、採用、非採用が決まるのは平面図、イメージパース、概算見積書を提出したタイミングです。
平面図、イメージパース、は何となく視覚的に分かりやすいのですが、概算見積書は建築の専門家でない先生方が見たところで、さっぱり分からないものが多く、頭金額や各項目の金額でしか比較できません。

概算見積もりを細かくしているところは、「拾い漏れが少ない」ため、後からこれは当初の見積もりで見ていませんでしたと言った「後だしジャンケン」も起こりにくく、また明細がしっかりしているということは、「抑えるための方法もそれを見れば考えることができる(取捨選択ができる)」ということになります。

  • 一般的に見積書は大項目(建築、電気設備、給排水設備、空調換気設備、現場経費、設計費)に分けられている
  • 大項目は、その下層に中項目になって分解されている(例えば建築であれば、間仕切り工事や家具工事、内装仕上げ工事、放射線防護工事など)。
  • 中項目は、その下層に工事別明細となって材料と施工費にそれぞれ分かれていきます(この明細にはその材料の品番などがあることが望ましいです)。

上記の工事別明細までの見積書があれば、自身で比較を進めることも可能です。

逆にこれが大項目や中項目までの見積書となると、いったいそこに何が含まれているのかは分からないので、一つ一つ確認していく必要があります。
「見積書を見る」ということになると、どうしても金額にばかり目が行きがちですが、注意点としては、金額よりも「何が入っていて、何が入っていないのか」を明確にすることです。

A.
患者さまの想いをできるだけ丁寧に聞いていただくように、できるだけ分かりやすく自身の医療への想いや方針、そして作りたいクリニックのイメージを文章化していただくことです(イメージの写真などが添えられていれば、なおありがたいです)。

内装設計は、

理論で納得できること:プランの使いやすさや各設備のスペックなどの部分
理論で納得しづらいこと:デザインや使ってみないと分からないと思う部分

があります。

内装のご提案にあたり、できるだけ先生の想いに近い提案をさせていただきたいと、我々内装会社は皆思っています。理論で納得いただける提案もできれば、理論だけでは納得いただけないこともあると思います。ただすべてのご提案のスタートとなる「先生の想い」が明確であればあるほど、ご提案のプロセスの中で先生に喜んでいただけるようなイメージを沸かせることもでき、お互いに原点回帰もでき、その道程のズレに気づくことができます。
またそうした「経営方針」にあたる文章は内装設計のみならず、様々な場面(ご開業前もご開業後も)で振り返ることのできる原点になると思います。

A.
新型コロナウイルス感染症の影響も受け、自動釣銭機(及び精算機)をはじめとしてキャッシュレス決済機など、受付廻りのICT化はこの5年ほどで急速に進んだ感があります。また今後、検査機器なども含めて診察に必要な情報統合はより進むのだろうと思います。
スーパーや飲食店でも自動釣銭機やキャッシュレス決裁が当たり前になり効率化は進んでいますが、一方で「人が、人からモノを購入したり、人からサービスを提供してもらっているという意識」を感じる場面が少なくなったように感じています。

また最近ご開業されるドクターのお話で「自動釣銭機等を導入したら受付スタッフを一人減らすことができるのでは?」という相談を受けることもあります。本来、受付の一番の仕事は「接遇」にあると思うので、この要因を減らすことができるのか否かは判断が難しい部分です。
内装会社は、患者さま、スタッフ、先生にとって「使い勝手が良く、居心地の良い空間」を提供する事が大切だと思いますが、居心地の良い空間というのは、ハード面だけではなく、ソフト面(人的要素)も大事なポイントです。大手サイトの口コミの様子が示すように、クリニックは、先生のみならず受付や看護スタッフの応対もそのサービスの要素として重要視されています。

クリニックは現在、「顧客満足を考える必要があるサービス業の要因」も強く意識しなければ競合と渡り合えなくなってきています。
クリニックのICT化をはじめとして高度情報化社会が、この10年以内にクリニックを変えていくのだろうと思っていますが、5年ほど前にとある開業ドクターの方々との懇談の場で、「何も考えずに開業をしていると、いずれ開業医という職業はITに取って代わられるだろう」という話題が出ました。「診察」というものが臨床という統計学の先にあるものであるのであれば、ITという最強の統計に人間は勝てないというお話でした。そのドクターたちは、この現状を日々変わりゆく「人を診る」という医師の原点を大切にする良い機会だ。という捉え方をしていました。

どのような会社も事業もいずれITが取って代わることのできることと、そうでないことの選別に真剣に向き合わないといけないと思います。
今のICT化は、その「人が向き合うこと=サービスの原点(顧客満足)」の重要性が試されているのだろうな、と思います。
この取り巻く環境や取り扱う機器の性能も目まぐるしく変わる時代の中で、「人が何に向き合うのか」を改めて考え、「永続的な理念を形成していくクリニックづくり」をスタッフと共に採択し、実践できるクリニックなのか否かが今後のトレンドを考えていく上での大切なポイントではないかと私は思います。

ユヤマ 地域医療支援室は、ご開業をお考えの先生方の自己実現を支援すべく、開業立地選定の段階からサポートさせて頂いているチームです。
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