1. クリニックを開業する理由
株式会社ユヤマは調剤機器メーカーであり、ユヤマ製品を取り扱う薬局・ドラッグストアの店舗展開するためにクリニック開業物件情報を多く取り扱っております。医療用物件の多くは薬局・ドラッグストアが調剤店舗の開局を予定している不動産が増えています。
ユヤマの開業支援ではその特徴から医療用の物件情報を随時、取得することができるためご開業を考えている先生より立地選定の段階からご相談を受けることが多いです。ご相談頂いた際、なぜ「開業」をお考えになったのかを伺うと次のようなことをお聞きします。
・自身のやりたい医療を突き詰めた結果、開業を決意した
・年齢的、体力的なことを考慮して開業を考えた
・子どもの学費など金銭的な面から決めた
・幼少期、学生時代から開業医を目指していた
・知人が開業をして成功しているのを聞いた
一方で、「何となく」という理由でご開業されることはあまりお聞きすることはございません。
近頃では金融機関が「開業理由」について融資相談にて質問されることも多く、「開業理由」について重視しているようです。開業を思い立った際には是非「建前ではない開業理由」を深く考えて頂くと良いのではないでしょうか。
開業医を目指すことで今現在置かれている状況(時間の使い方や金銭面)がどう変わるのか。ポジティブな面ばかりではなくネガティブな側面にも目を向けて検討されることをお勧めします(例えば事業を起こすためには借り入れが必要であったり、人事労務に苦慮される先生が多いです)。
2. 診療方針を明確にする
開業地を考える際、下記表1を参照として6W2Hをご自身のお考えにあてはめて考えていきましょう。特にクリニックを開業(経営)する上で診療方針を明確にすることは非常に大事なことです。
3. 開業時期の確認
ご開業を目指す上でご自身にとって開業に適している時期を掴んでおく必要があります。
開業時期を左右する例としては下記が挙げられます。
・所属医局との兼ね合い(退局の相談の時期など)
・勤務先の職務規定(半年前退職通知など)
・〇年後の資格取得後に開業をしたい
・家庭環境(子供が小学生になってから開業など)
先生方が考える理想の開業時期は様々ですが、やっと見つけたご希望エリアの新築物件でご開業するためには物件の都合に合わせる必要があります。新築の物件は、竣工後すぐに賃料が発生することが多いため、開業が間に合うように準備を進めなければなりません。1年後に竣工が決まっているのであれば、そのタイミングに合わせて退職・開業準備などを進める必要があります。また、一般の不動産空きテナントを選択した場合についても注意が必要です。不動産の契約後に賃料がすぐに発生することが一般的ですので、開業時期の調整に苦慮されるケースがあります。
退職後も勤務先と円満な関係を築くことを重視される場合は退職の仕方も大切になりますので、開業時期はいろいろと調査・調整する必要があります。
開業時期を設定・考慮することは当然大切ですが、理想の不動産が見つかった際には柔軟に対処する必要があります。
4. 投資計画・収支計画
選定したテナントの面積、B工事費(防災工事や空調工事が入居建物の指定業者となる)などにより内装費が高額になることもありますし、保証金(敷金)の金額も対象物件により様々です。戸建てクリニックについても大手ハウスメーカーは工務店よりもどうしても建築費が高額になります。事前の投資金額の設定に余裕を持たせることも大事です。また、リスクヘッジの観点から予定投資金額の範囲で不動産を選定することを優先される先生も多いです。
できれば物件選定までに開業におおよそどれくらいの費用が掛かるのかを掴んでおくことも大事です。「1億円は掛からないだろうけど実際には分からない…」という声も聞きます。
設備資金の項目(内装費、医療機器などの設備関係費、保証金・敷金、医師会入会金)と、運転資金の項目(人件費、諸経費、開業準備費)の合計が支出予算になります。科目ごとや行う診療によって広さ、必要設備も異なります。科目ごとのおおまかな必要費用の目安が表2になります。コロナ以前と比較して費用は高騰しています。物価高の影響などもありますが、医療DXにより診察室手前の受付周りに必要な機器の種類が増えたことも影響しています。
収支に関しては、
「売上 = 診療単価 × 患者数」を掴むことができます。
患者一人あたりの診療報酬単価はいくらになるのか、患者数はどれだけ見込めるのか、1日あたり診察できる患者数で変動します。診療報酬単価は科目ごとの平均を用いることが多いですが、手術や検査での収入に関しては内容ごとに変わるため設定はケースにより異なります。クリニックの面積でも患者数は変わるため(診察室の数など)広さの検証は必須となります。当初の収支計画を立てる上では「厳しめに設定(費用は多めに、収入は少なく)」するくらいの計画を立てることをお勧めします。
参照: 関東厚生局 令和6年度 保険医療機関等の診療科別平均点数一覧表
https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/gyomu/gyomu/hoken_kikan/heikin.html
5. 開業候補地選定
開業計画における最重要課題が「開業場所の選定」であると言えます。特に、当初の立ち上がりについては立地や環境によって大きく影響しますので慎重な検討をお願いします。
A. エリアの絞り込み
開業エリアの希望を先生方からお聞きした例は下記の通りです。
・勤務先の近く(患者確保の見込みが出来るためスタート時の不安は軽減できる)
・競合が少ない場所
・ターミナル駅付近(潜在患者数は多いが既に競合が立地していることが多い)
・人口・患者数が増えているエリア(再開発エリア)
・通勤圏内(ワークライフバランス、通いやすいことを考慮)
最終的な絞り込みは診療方針や経営の側面から考えると良いのではないでしょうか。対象とする患者が少ないエリアよりも患者を見込める(来院する可能性が高い)エリアを選ぶ必要があります(需要と供給を考慮→診療圏調査の活用を推奨します)。
B. 開業場所立地
駅前、オフィス街、住宅街、郊外でもそれぞれメリット、デメリットがあります。表3を参照下さい。
C. 開業形態
テナント開業と戸建て開業、医療モールのメリット、デメリットを表4にまとめました。
医療モールの特性上、入居クリニック同士で重複しない標榜科目を促しているため1診療所で専門領域以外の複数科目を標榜することは難しい場合があります。例えば内科・整形外科・小児科・外科・皮膚科などの複数標榜を医療モール内1診療所ですることは難しいです。
D. 賃料とバランス
固定費であるテナント賃料も近年の物価高騰の影響で上昇しています。物件選びではこの固定費を抑えるということも大事な要素です。
診療報酬や医療機器の代金は場所によって変わりませんが、賃料は場所によって異なります。
駅前だとしても好立地と路地裏物件では賃料に差があります。より多くの来院数が見込まれるのはどちらか、ご自身であればどちらに行きたいかなど患者目線で考えるなど多角的に検証が必要です。
賃料が高額だとしても患者来院予測が申し分無い場所であれば開業場所選定として適しているでしょう。大事なのはご自身が納得いく場所で、納得のいく賃料かどうかだと思います。
賃料相場は周辺の不動産(建築時期、建物スペックなど)を比較してみると傾向を掴むことができます。
E. 建物スペック確認
気に入った物件が見つかったらクリニックに適した建物かを検証する必要がございます。
例えば、集患の観点から看板の設置については大事なことですが看板の設置位置、掲出方法に制限がある建物もあります。
内装については給排水の位置や天井高の確認が必要になります。エレベーターについても有無、車椅子、ストレッチャーが入るかなど事前確認をしましょう。導入されたい医療機器に対し電気容量に不足が無いかも建物の設備に関係します。
防火防災の兼ね合いで医療クリニックの入居が問題無いかどうか、不動産契約前に確認することをお勧めします。
内装工事区分の中でB工事の範囲も要確認事項と言えるでしょう。商業施設の場合割高になる傾向もあるため事前の確認と予算組みを行う必要がございます。
立地や賃料は申し分なかったとしてもスペック不足で借主の工費負担が発生することや看板を思い通りに掲出できないケースもあります。
これらは不動産契約前に必ず設計会社などの協力のもと、内装工事費とは別に発生する追加の工事費などしっかりと事前確認が必要です。
6. 診療圏調査
候補物件の周辺調査(マーケットリサーチ)を行う方法としては診療圏調査があります。診療圏内の人口に対して受療率を掛け合わせ、競合数+1(自院分)で割った数字が来院予測患者数であり、目安となります。
診療圏調査ソフトを用いて来院予測患者数を出すことが多いのですが、そこからさらに考察することが大切です。例としていくつかご紹介します。
・どこまでの範囲で来院が見込まれるのか?(2km先からも患者が来るのか?同心円以外での調査も必要!?)来院がより遠くから見込まれれば対象人口は単純に増えます。
・患者動線の分断要因はあるのか?(河川や線路で分断されるケースもある)
・駅近くの立地であれば乗降者数も参考数値になる。
・競合先の調査も不可欠です。例えば、競合先Drの年齢や評判、患者来院数、どういった診療内容か等も調べると、より調査の精度は上がります。
来院予測患者数や競合数だけを見るのではなく、診療圏調査を実施し得られる情報から競合クリニックの実態検証、診療圏の分断要因、拡大要因の検証、人が集まる施設の調査、交通網(駅の立地、乗降客、バス路線)など検証する必要がございます。さらには現地に赴きご自身の足で調査するのも良いのではないでしょうか。
周辺医療機関調査の参考に『医療情報ネット』
https://www.iryou.teikyouseido.mhlw.go.jp/znk-web/juminkanja/S2300/initialize
こちらでは各都道府県に医療機関より届け出された情報が反映されています。医師名や専門医、患者数なども調べることが出来ます。
7. 事業計画(経営シュミレーション)
クリニックの経営が成り立つか検証するために事業計画を作成します。
クリニック運営の特性上、保険収入は遅れて得られることも考慮し、特に開業後2年間で資金ショートしないだけの運転資金の設定も大切です。患者数が増加するにつれて従業員の数も増やす必要が出てきます。
諸経費が膨らみますし、場合によっては勤務医を増やす構想も資金計画に落とし込むプランニングが不可欠です。収入が増えるだけではなく、支出も増えることを計画に盛り込むということです。
経営面を考慮する上では、シミュレーション後の見直しが大切です。支出を抑える努力をするのか、収入を増やす策を講じるのか、再検証する必要があります。医療機器の見直しや広告宣伝費の見直しなど行います。重要なことは「必要なものは削ってはいけない」ということです。医療の質、クリニックの質を落とすことに繋がります。効率を上げる、質を高めるためには、費用が掛かるということも十分に考慮しご判断いただければと思います。
8. 考察、評価、決定
いくつかの物件から絞り込みをするには、「考察」「評価」を行います。その際は注意しなければいけないのは「先生ご自身が良いと思う物件は他の人も良いと評価している可能性が高い」ということです。
良い物件ほど他の先生、場合によっては他業種との競い合いになります。決定スピードが時には重要で、熟慮は深く、行動は早くをお勧めします。
9. 不動産契約
物件を「決める」、「決めた」というのは「不動産契約」が成り立ってからになります。不動産契約前に貸主側や建物都合で計画途中に頓挫するケースもあります。他の業種や先生以外の入居者を選ぶこともあります。
そこで気を付ける点は「勤務先への退職通知」です。契約成立前での退職通知にはリスクも伴う為ご注意下さい。不動産契約書の内容チェックも、ご自身だけでなく経験豊かなアドバイザーの意見を聞きながら行うと良いでしょう。貸主側が作成された契約書を、借主(先生)側の立場も考慮された内容に修正変更を行っていくことも協議のひとつです。事前に取り寄せ確認をすることをお勧いたします。
チェック項目として下記参照下さい。
・契約期間(残契約期間が短いと医療法人化が承認されないケースもある。2年契約などは注意。)
・使用目的(使用用途が診療所になっているか。店舗はNG。)
・解約条項(退去時のペナルティ内容を確認)
・更新内容
退去する可能性も考えた内容確認が必要となります。事業継承を事前に承諾するといった条文挿入をすることも過去、例としてはございます。ただし、あくまでも貸主側の承諾が必要になることにはご留意下さい。
さいごに
弊社ユヤマでは「開業場所選定の相談」を多く承っております。
・これから場所探しをされる方
・現在検討場所の目星を付けているが迷っている方
・なかなか適した物件に巡り合えていない方…など
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